青い小父さんと魚《うを》

蟻は工兵やら、砲兵やら、輜重兵《しちやうへい》やら、何千となくやつてきて魚を運びだしました、烏や野良犬や溝鼠のやうに運ぶのに早くはありませんが、それでも親切で熱心に運んでくれましたから、幾日かのち、丘続きの崖のところまで運んでくれました。 この崖の下はすぐまつ青な海になつてゐました、魚は海に帰れると思ふと嬉しさで涙がとめどなく流れました、親切な蟻の兵隊さんになんべんも厚くお礼を言つて、魚は崖の上から海に落ちました。 魚はきちがひのやうに水のなかを泳ぎ廻りました。前はこんなことがなかつたのですが、ともすれば体が重たく水底に沈んでゆきさうになりますので、慌ててさかんに泳ぎ廻りました、それに水が冷めたく痛いほどで動くたびに水の塩が、ぴりぴりと激しく体にしみて苦しみました。 その上すこしも眼が見えませんので、どこといふあてもなくさまよひ歩るきました。 それから幾日かたつて、魚は岸にうちあげられました、そして白い砂がからだの上に、重たく沢山しだいにかさなり、やがて魚の骨は砂の中に埋《うづ》もれてしまひました。 さいしよは魚は頭上に波の響きを聴くことができましたが、砂はだんだんと重なり、やがてそのなつかしい波の音も、聴くことができなくなりました。(大13・8愛国婦人)[#改ページ]

青い小父さんと魚《うを》[#「青い小父さんと魚」は大見出し]

 あたゝかい南の国の、きれいに水が澄んだ沼の、静かな岩かげの深みに、黄色い上着に黒い棒縞のチョッキを着た、小さな魚の一族が暮らしてゐました。 なかでいちばん赤いズボンをはいたのが父親で、母親は赤い肩掛をしてゐました。 娘たちは淡桃色《うすもゝもいろ》のひだ飾りのついた、それは大きなリボンを結んで居りました。 いちばんの姉《あね》さんの魚は、たいへん活溌で、ことにダンスがそれは上手でした。 夕暮れになつて、お日さまはだん/\と森陰に沈みかけます。そして、『沼の愛らしい魚達よ、左様なら。』

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