はるかな夕焼けの空

とはるかな夕焼けの空から、金色のあいさつを沼の水面に投げかけるころ。 姉さんの魚はきまつて何時《いつ》も、水面に浮んでまゐりました。 そしてこの金色《こんじき》のさゞ波にくるまつて、それは上手に踊るのでした。すると夕暮れの風は、急にはしやぎ出しますし、沼の周囲《まはり》の草木もさかんに拍手をいたします。 この姉娘の一家はむろんのこと、沼中の魚がみな、水底で夕飯がすむと、水面にうかんできてこの娘さんの、上手なダンスをながめるのでした。 姉娘は、きれいな金色の波にくるまつて、すい/\と水面に、できるだけたかく跳びあがりました。親達はまたたいへん姉娘の踊り上手をじまんにして居りました。 いちばん末の妹娘の魚は内気な性分でしたから、あまりダンスなどを好みませんでした。それでたつたひとりぼつちに、水のつめたいゆるやかな水底の砂地に坐つて、水草で赤と青のショールをあんだり、細かな七色の石をあつめて首飾りをつくつたり、ときどき誰もゐない水面にうかんで、小さな声で歌を唄つたりして遊ぶことが好きでした。 或る日妹娘が、いつものやうに、水面に小さな可愛らしい口を、ぽつかりと出して独唱をやつて居りますと、ふいに沼岸の草原にがさ/\と音がしました。 それは妹娘のいまゝで一度も見たことのないやうな、奇妙なかたちのものでした。 青いきら/\と光つた服《きもの》をきて、絶えずからだをゆすぶりながら歩るきます。その不思議なものは沼岸のところまでやつてきて、ぴんと頭をあげながらなれ/\しく、『淡桃色《うすもゝいろ》のリボンをつけたお嬢さんよ、なんといふ、美しい声をおもちでせう。水の中にすんでゐる鶯のやうだ。』 かう魚に言葉をかけました。 魚はあまり不思議な姿をしてゐるものですから、『貴方は、水の魚、それとも陸《をか》の魚、青い小父さんはなあに。』 とたづねました。『青い小父さんは、水の魚だよ、あまり退屈なものだから、かうして土の上を散歩をしてゐるのさ、』と青い小父さんは答へました。

— posted by id at 12:31 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 2.0787 sec.

http://ebook-my-home.com/