お嫁さんの自画像

お嫁さんの自画像[#「お嫁さんの自画像」は大見出し]

 トムさんのことを村の人達は、馬鹿な詩人と、言つてをりました。 トムさんは、無口で、大力で、正直で、それにたいへん働きました、たゞひとつ困つたことには、畠に出て仕事の最中に、いろいろなことを空想し、それからそれと空想し、しまひには、まとまりがつかなくなつて、べたりと地べたに坐り込んで、頭を抱へたきり動きません。村の人達は、これを見て『ああまた馬鹿な詩人が何か考へてゐるな。』と笑つて通りすぎます。 トムさんは、いままでにお嫁さんを三人も貰ひましたが、トムさんがこんな具合に、畠に出て行つては、考へこんでばかりゐて、仕事が他の農夫の半分も、はかどらない始末に呆れ果て、みな逃げ帰つてしまひました。 それでトムさんも、もうお嫁さんは貰ふまいと決心してゐました。 村の人も、またトムさんのところへならお嫁さんにやらないと言ひました。或る日、トムさんが畠に出て、一鍬土を耕して、じつと鍬の柄に凭《もた》れ、ぽかんと口をあけて空想にふけりました。 あの芋の種が、青い芽を出して、その芽が葉を出して、その葉がだんだん横にひろがつて、しまひには、村中の屋根も道路も、私の芋の葉に、くるまれてしまひ、その茎のいたるところから根がついて、果ては海も山も、世界中が、芋の葉のために、お日さまが見えなくなつてしまふ、そこで世界各国の王様が協議を開いて、かうだんだんと芋が繁つてくるといふのは、何処かに、すばらしく大きな芋の王様が住んでゐて、その親根《おやね》からかうたくさん殖えてくるにちがひない、さつそくその芋の王様を探しだせと、数百万の兵隊を繰り出す、しかし其の頃は地の底は、芋の根だらけで、まさかこのトムさんの畠に、芋の親根があるとは気づかない。 世界の王様が困りはててゐるところに、トムさんは『私は芋の王様です。』と名乗りをあげる。そこで世界の王様は、『これは/\芋の王様、かう日増《ひまし》に芋の葉が繁つていつては、しまひには、私達の呼吸《いき》がつまつてしまひます、いつこくも早く、世界中の芋の葉を、枯らしていただきたい。』と頼みこむ、そこで私は家《うち》へ帰つて、畠の親芋を掘りだしてしまふ、すると世界中の芋の葉がみな赤く枯れてしまふ。わたしはこの功労によつて、世界の王となる、トムさんはこんな具合に、つぎからつぎと、いろいろな空想を描くのでした。 そのときトムさんの頭の上の青空を一群の白鳥が、南の湖の方へとんで行きました。 

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