たいせつなお嫁さん

それはもしも、トムさんの不在に、たいせつなお嫁さんが、鼠にひいてゆかれたり、犬にくはえてゆかれたりしては大変だと、心配になつて仕事が手につかないからです。 トムさんは、このことをお嫁さんに話しますと、お嫁さんは、それではよいことをしてあげようと言つて、鏡をもつてきました。 この鏡に自分の顔をうつして、これを見ながら一枚の紙に自分の顔を描きました。 この自画像がまた、それは上手にかかれて、生きてゐるやうに見えました。一本の竹きれをもつてきて、この先をちよつと割つて、このお嫁さんの自画像をはさみました。 トムさんは、お嫁さんに言はれたとほり、この竹の棒を、畠の畦の、いちばん向うの土に立て、こつちの方からこの画をながめながら、耕しはじめました。 お嫁さんの自画像は、いつもにこにこ笑つてゐました。 お嫁さんの自画像のところまで耕してくるとこんどはこの自画像を第二の畦の、反対の向うはじに立てて、こちらからせつせと耕してゆきます、ですからその仕事のはかどることと言つたらたいへんです。 村の人はちかごろのトムさんの働きぶりに眼をまるくしてゐました。 ある日大風がふいてきて、このお嫁さんの自画像を吹きとばしてしまひました。自画像は、ひらひらと風に舞ひあがつて、どこまでも飛んでゆきます。 トムさんは、はんぶん泣きながら、『お嫁さん待つてくれ。やーい。』『お嫁さん。やーい。』と叫びながら、どこまでも追ひかけました。 とうとうお嫁さんの自画像は、王城の塀《かべ》の中に落ちてしまひました。トムさんは泣く泣く家に帰りました、そしてその訳をお嫁さんに話しました、お嫁さんは『あんな絵はいくらでもかいてあげませう。』とトムさんをなだめました。 お城の塀《かべ》の中に落ちた自画像は、兵士が拾つてこれを王様に差上げました。 王様はこの画をひとめ御覧になつて、あまりの美しさにお驚きになりました。

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