たばこの好きな漁師

王様はたいへん喜びました。それはトムさんのお嫁さんが、妃になつてから、いちども笑つたことがないのに、いま笑つたのを見たからです。『これ妃そなたはいま笑つたではないか、何を見て笑つたのか、さあいま一度笑つてみせて呉れ。』と言ひました。 お妃はトムさんを指さして『王様あれを御覧なさい、なんといふ滑稽な姿の乞食でせう。もし王様があの男の着物をきて、あの男のかはりにあそこへお立ちになつたら、どんなにお可笑いことで御座いませう。』と申しました。 王様はいま一度妃の笑顔をみたいばつかりに、トムさんを御前に呼び出して、王様のりつぱな着物を着せて、お妃の傍へ坐らせ、自分はトムさんの着てゐた、ボロボロの服をきて、杖を握つて、城門の外の、見物の中にお立ちになりました。 しかしいつまでたつても、トムさんのお嫁さんのお妃は、すこしも笑ひませんでした。 王様はお妃の笑ふのを、いまかいまかと待つてをりました。しかしお妃は笑ひません。 そのうちに門を閉ぢる時刻の、午後五時がきて城門は閉ぢて了ひました。 そこで王様はまんまと城外に追ひ出され、馬鹿な詩人のトムさんが、王様と早変りをしてしまひました、城の兵士たちも、王様のわがままを憎んでをりましたので、誰もみな喜んだくらゐです。 不思議なお嫁さんは、いつかトムさんが空を仰いでながめた白鳥のお姫さまでした。(大14・4愛国婦人)[#改ページ]

たばこの好きな漁師[#「たばこの好きな漁師」は大見出し]

[#4字下げ]一[#「一」は中見出し] 南の暖かい国の海岸に、茂作《もさく》といふ若い漁師が住んでをりました。 茂作はたいへん力が強く、乱暴者でそれに村でも有名な、なまけ者でありましたので、誰も村の人達は、対手《あひて》にいたしませんでした。村の人達は、茂作のことを、けむり[#「けむり」に傍点]の茂作と呼んでをりました。

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