雲の上の天女

茂作は思はず、雲の上の天女をみあげながら叫びました。 それはその美しい天女がふさ/\とした金の毛の三|間柄《げんえ》もあるやうな長い箒をもつてゐましたので、すぐに箒星のお姫さまと思つたのでありました。 茂作の思つたやうに、天女は箒星であつたのです。 箒星は、屋根の上の茂作の声に、びつくりして雲にのつて、たかく空にのぼりながら、『わたしは、煙草の匂ひが嫌ひです。』 かう言つて、雲の上でつづけさまに大きな嚏をいたしました。 そして長い柄の金の箒を、上手に使ひながら夜の空を、きれいに掃き清めだんだんと、遠くの空に行つてしまひました。 箒星の天女の美しさに、茂作はしばらくは、魂のぬけた人のやうに、ぼんやりと屋根のうへに立つてをりました。 その翌晩、茂作は背中に大きな模様のある大漁祝に、村の人から貰つた、新しい浴衣《ゆかた》を着て屋根のうへにあがりました。『箒星のお姫さま、どうぞ茂作のお嫁さんになつて下さい。』茂作は、大きな掌を空にささげながら、箒星の通るときかう言つて、お願ひをいたしました。すると箒星は『わたしは、煙草の匂ひが嫌ひです』 と言ひながら、つづけさまに大きな嚏をしながら、夜の空を掃き清め、だんだんと遠くの空に行つてしまひました。 翌朝茂作は裏の竹林から、長さ二間ほどの太い竹を伐つてまゐりました。 その竹の節をぬいて長いきせる[#「きせる」に傍点]をつくりました。茂作は箒星が自分のお嫁さんになつてくれなかつたので腹をたてたのでした。そして箒星を煙ぜめにして下界に落し金の箒をうばひとつて、その金の箒を古道具屋に売つてお金持にならうと思つたのでした。 その夜茂作は、長い竹のきせる[#「きせる」に傍点]に、どつさりと刻煙草《きざみたばこ》をつめこんで、箒星のお姫さまの通るのをまち構へました。

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