親不孝なイソクソキ

村の人達は、その夜いつものやうに艪拍子も賑やかに、沖の釣場にむかつて漕ぎだしました。 かがり火を昼のやうにあかるく、船腹をづらりとならべて、鼻歌をうたひながら釣針を海に投げました。 すると油のやうに静かな海の面《おもて》が、急にざわざわと、さわがしくなつてまゐりました。 そして、それは数知れないほど、たくさんの、漁師達が、ついぞ見かけたことのないやうな、名もしれぬ不思議なものが、水面で星のやうにきらきらと光りました。 そしてこの星のやうな形のものは、漁師の投げた烏賊釣針に、われさきに争つて喰ひついてあがりました。『恨めしい茂作さん、わたしを天から落したね。』 かう言つて、その星のやうなものは釣りあげられた船の板子の上で、身を悶えてころがりながら、さめざめと泣きました。 漁師は吃驚《びつくり》して尻餅をつきました。『わしは茂作ぢやない、茂作は陸《をか》にゐるよ』『これは大変だ、人違ひだ、茂作ぢやない』 と漁師達は、釣竿を海に投げすてて陸《をか》に逃げかへりました。 そのことがあつてから、漁師達の釣針に喰ひつくものは、この星の形をした赤い気味の悪い海星《ひとで》ばかりとなつていつぴきの烏賊も釣れなくなりましたので、村はみるかげもなくさびれてしまひました。(大14・11愛国婦人)[#改ページ]

親不孝なイソクソキ[#「親不孝なイソクソキ」は大見出し]

 けだもの達も、鳥達も、大昔は、たつた一人の母親に、養はれて居りました。 母親はたいへん皆を優しく、同じやうに可愛がつて居りました。

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