悪い野牛

 すると其処へ野牛がやつてきました、そしていかにも自慢さうに、ながながと自分の身の上話をはじめました。樵夫は、たいへん仕事の邪魔になつてこまりましたが、のこぎりを引く手を止めずに、ごしり/\と樹を伐りながらその話をきいて、すこしも対手になりませんでした。 野牛は、なが/\としやべつてをりましたが、大きな杉の樹の根もとが、七分どほり伐つたころに、不意に力いつぱい、両方の角で押しましたので、あつと言ふまに、杉の大木は樵夫の方に倒れかかつて、かはいさうに、樵夫の父親は、ぺつちやんこに、樹の下になつてつぶれてしまひました。『モーモー、この森は、おれの天下だ。おれは野牛大王だ』 悪い野牛は、後肢《あとあし》で土《どろ》を蹴りながら、大喜びで逃げてしまひました。 森の小鳥が、この出来事をさつそく山小屋に留守居をして居りました、樵夫の子供に知らせましたので、子供はびつくりして馳けつけました、子供はどんなに悲しんだことでせう。 けだものや、鳥達も、みな寄り集つてかなしんでくれました、そして悪い野牛を憎まないものは、ありませんでした。 その日、樵夫の子供は、かたばかりのお葬式《とむらい》をして、父親を、森の小高いところの土《どろ》を掘つて埋めました。 この父親を埋めた土《どろ》のちかくに棲んでをりました一匹のこほろぎが、たいへん樵夫の子供に同情をして、きつと私が仇討《あだうち》をしてあげますからと親切になぐさめてくれたのです。 その翌日《あくるひ》、森の中で盛大なお話の会がひらかれて、いちばんお話の上手なものを森の王様にしようといふ相談をしました、これをきいた野牛は、まつ赤になつて怒りながら、会場にかけつけて『この俺を、のけ者にして相談をするとはけしからん、誰がなんと云つても俺は大王さまだ』 と叫びました。 支配人の白い鳩は、まあまあと野牛をなだめつけて、『それでは、これからお話の競技会を始めます。』 と一同の者に、開会の言葉を申しました。野牛は、けふこそ、得意のおしやべりで、みなのものを負かして、王さまの位についてやらうと考へました。

[#4字下げ]三[#「三」は中見出し]

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