お月さまと馬賊

野牛は、とうとう腹をたててしまひました、こほろぎを、その角で、ただ一突きに突き殺してやらうと思ひましたが、樹の切り口の奧のところに、こほろぎがゐましたので、それもできませんでした。野牛はますます腹をたててこんどは、切り口に、長い舌をぺろりといれて、こほろぎを捕《つかま》へようといたしました。 そのとき、傍にゐました、樵夫の子供は『占《しめ》た』と、切り口にさしいれてあつた楔を手早く抜きましたので、野牛は切口に舌をはさまれてしまつたのです。 森のみんなは手を拍つて笑ひました。 野牛のとがつた角は後《うしろ》の方にまがり爪がふたつに割れるほど、あばれてみましたが、舌はぬけませんでした、はては大きな声で泣きながら、『モーモー、おしやべりをしませんから。モーモー悪いことをしませんから』 とあやまりましたので、樵夫の子は野牛の口のなかから、おしやべりの珠をぬきとつて、とほくの草原になげてしまつてから野牛をゆるしてやりました。 野牛は、泣く泣く森を逃げだしました。 あの真珠のやうな、小さな言葉の珠を失くしてしまつてから、牛はもう言葉を忘れてしまひました。『たしかこの辺だつたと思つたがなあ』 牛は野原の草の間を、失くした珠を探して、さまよひました。『モーモー、おしやべりをいたしません、モーモー』 牛はそれから、こんきよく野原の青草を口にいれて、ていねいに噛みながら、失くした珠を探しました。(大15・2愛国婦人)[#改ページ]

お月さまと馬賊[#「お月さまと馬賊」は大見出し]

[#4字下げ]一[#「一」は中見出し] ある山奥の、岩窟《いはや》の中に、大勢の馬賊が住んでをりました。ある日、馬賊達は、山のふもとの町へ押しかけて、さんざん荒しまはつた揚句、さまざまの品物を、どつさり馬に積んで引揚げてまゐりました。

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