お祝ひの酒盛り

馬賊達は、山塞《さんさい》でさつそく、お祝ひの酒盛りを夜更《よふ》けまで賑やかにやりました。歌つたり騒いだりして、馬賊達はすつかり酔つぱらつて、やがて部屋の中の、あつちにも、こつちにも、ごろりごろりと、魚のやうに転ろげてねむりました。馬賊の大将も、たいへんいゝ気持になりました、そしてあまりお酒を飲んだので、顔が火のやうにほてつて、苦しくてたまらなかつたので、冷めたい夜の風にでも冷やしたなら、きつと気持がよくなるだらう、と考へましたので、山塞の扉《と》をひらいて戸外《そと》にでてみました。 戸外《そと》は、ひやひやとした風がふいてをりました、それにその夜《よ》は、それは美しいお盆のやうな銀のお月さまが、空にかかつてゐたものですから、地上が昼のやうにあかるかつたのです。『なんといふ、きれいなお月さんだらうな』 馬賊の大将は、お月さまの、すべすべとなめらかな顔と、自分の頤髯のもぢやもぢやと、蓬《よもぎ》のやうに生えた顔とをくらべて考へてみました。 それから馬賊の大将は、裏手の厩《うまや》の中から大将の愛馬をひきだしてきて、それにまたがりました。そのへんは山の上でも、平らな青い草地になつてをりましたので、馬賊の大将は、どこといふあてもなしに、馬にのつたまま、ぶらり/\と散歩をしました。『けふは、お前の勝手なところにでかけるよ。』 大将はかういつて、馬の長い頸を優しく平手でたたきました。 馬はいつもならば、荒々しく土煙をあげて、街中を狂気のやうに馳け廻らなければなりませんのですが、その夜《よ》は主人のおゆるしがでましたので、気ままに、柔らかい草のあるところばかりを選んで、足にまかせて歩るき廻りました。 大将は草の上に夜露がたまつて、それが青いお月さまの光に、南京玉のやうに、きらきらとてらされてゐる、あたりの景色にすつかり感心をしてしまつて、どこといふあてもなしに歩るきまはりましたが、やがて飲んだお酒がだいぶ利いてまゐりますと、とろりとろりと馬の上で、ゐねむりを始めました。とうとう馬賊の大将は、鼻の穴から大きな提灯をぶらさげて馬の頸にしがみついたまま、すつかり寝込んでしまひました。

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