獄門の横木の大将の首

 すると或る日、獄門の横木の大将の首のつい隣りのところに、新らしく切られた首がひとつのつかりました、そして大将の首に話しかけるではありませんか。それは馬賊の家来の首であつたのです。『わたしも、すつかり悪心を洗ひ清めて、月をながめるやうな、風流な男になりましたから』 かういつて、ぺこりと家来の首はお低頭《じぎ》をいたしました。 大将の首も、喜んで、そこで二人が合唱をやりました。 するとまたその翌日新らしい馬賊の首が一つ獄門の横木にならびました、そして、それから十日と経たないうちに、山塞の馬賊の首がずらりとならんでしまつたのです。 それは人を殺したり、お金を盗つたりする悪い心が、みなお月さんをながめるやうな、風流や優しい心になつたからです。そして一人一人山奥から街の酒場にやつてきては、お酒をのんで兵隊に首を切られたからでした。 そこで大将の首は、家来の首のずらりとならんだ、まんなかで、長い頤髯をぴんぴんと動かして拍子をとつて、にぎやかに合唱をはじめました。 どれもどれも、いずれ劣らぬお酒に酔つた、まつ赤な顔をして、大きな声を張りあげて、浮かれて歌をうたふものですから、その賑やかなことと言つたらたいへんでした。 街の人達は、夜どほし馬賊の首達が合唱をいたしますので、やかましく眠ることができませんので、兵隊に、あの沢山の首をなんとか、始末をしてくれなければ困りますと申し出ました。 そこで兵隊は、あまりたくさん獄門に首がならんで、後から切つた罪人の首の、のせ場もなくなつたものですから、処刑場《しをきば》の広場のまん中に、大きな穴を掘つて、その中に首を投りこんで、上からどつさり土をかけてしまひました。 それからのち、馬賊の首達は、月見の宴《えん》をやることもできなくなり、酒の酔もだんだんとさめてきたので、たいへんさびしかつたといふことです。(大15・6愛国婦人)[#改ページ]

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