大胆な黒い騎士

大胆な黒い騎士は、その日の夕方、野の中の古い寺院に引返してまゐりました。 扉はなんの苦もなく、ひらかれました。 第一の部屋には、騎士がたつた一人で引返してくることを、ちやんと知つてゐるかのやうに、土間には、一つの秣桶と、一つの水桶と、が用意され、第二の部屋には、一人分の食事と、第三の部屋には、ものを言はぬ女が坐つてゐて、第四の部屋には一人分の寝台とが用意されてをりました。 黒い騎士も、さすがに不思議に思ひながら寝床の中にもぐりこんで眠りました。 果して真夜中頃遠くから足音がしてやがて、その足音は、騎士の室《へや》に忍びこみました。 騎士は寝息を殺して、じつと様子をうかゞつてをりますと、前夜のやうに『もし/\、太陽の申し児のやうな、たくましい旅の若者。わたしが、一生のお願ひがございます。』 と女が小声で言ひました。騎士は、やにはに、がばと飛び起きて、しつかりと女の袖を、捕へました。しかし女は少しも逃げようとはせず、窓から戸外をながめながら遠くを指さします、そしていかにも案内をするやうに、自分が先にたつて歩るきだしましたので、騎士は狐につまゝれたやうに、その後について行きました。 すると女は野原の暗がりを十丁程も先に立つて歩るきましたが、女の着いたところは小高い丘になつてゐました、そしてそこの草の茂みの中に二三十の石碑《せきひ》がならんでをりました。 女と騎士は墓場にやつてきたのでした。女はその石碑のうちの小さいのを指さして、唖のやうに無言に、土を掘れと手似《てまね》をするので、大胆な黒い騎士は、度胸をきめて土を掘りました。 なかゝらは、まだなま/\しい赤児の死骸が出てまゐりました。 女はこれをながめて、にや/\と笑ひました。

[#4字下げ]五[#「五」は中見出し] 女は不意に、赤児の腕をぽきりと折つたと思ふ間に、むしや/\と喰べ始めました。

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