鉄砲をもつた人

と叫んで爺さん牛の方に、走つてきました、中には鉄砲をもつた人も居りました。 牛はさんざん暴れ廻つて、逃げようとしましたが、とうとう捕まつて、この爺さん牛も、婆さん牛と同じやうに、黒い屠殺場の建物の中で、額を力まかせに金槌で殴りつけられて、ひつくり返されてしまひました。     * ――婆さんや、おや、婆さんや、お前はこんな処に居たのかい、わしはどれ程お前を、うらんでゐたかしれないよ。 ――まあ、まあ、爺さん、わしもどれほど逢ひたかつたかしれないよ。 爺さん牛と、婆さん牛は、思ひがけない、めぐりあひに、抱き合つて嬉しなきに泣きました。 ――どどん、どん。 ――どどんが、どんどん。 赤いお祭り提灯が、ぶらぶら風にゆれ、紅白のだんだら幕の張り廻された杉の森の中では、いま村祭の賑はひの最中でした。 爺さん牛、婆さん牛は、その祭の社殿に、それは大きな大きな太鼓となつて、張られてゐたのです。 村の若衆が、いりかはり、たちかはりこの太鼓を、それは上手に敲きました。 ――婆さん、わし達はこんな幸福に逢つたことはないなあ。 ――わしは、あの丸い棒がからだに触れると急に陽気になつて、歌ひだしたくなる。 ――お前とは、いつもかうして離れることがないし。 ――あたりは賑やかだしなあ。わし達の若い時代が、いつぺんに戻つて来たやうだ。さあ婆さん、いつしよに歌つた、歌つた。 ――どどん、どん。 ――どどんが、どんどん。夫婦牛の太鼓は、七日の村祭に、それは幸福に鳴りつづきました。

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