赤いゴム風船

トロちやんは、赤いゴム風船を、買つて貰ひましたが、あまり人混みでありましたので、人に押しつぶされて、パチンと破れてしまひました。『お母さん、絹の靴下を、買つて頂戴よう。』 トロちやんは、ベソを掻きながら、母さんの袖にぶらさがりました。『トロちやんは、夜おねんねの時に、お手々を洗ひたがらないし、汚ない足で、絹の靴下など履いたつて駄目ですから。』 かう言つて、お母さんは買つてくれませんでした。お母さんは、金槌やらお鍋やら、帽子掛けやら、たくさんの金物類をならべた、夜店の前に立ち止まりました。そして『トロちやんには、これを買つてあげませう。』 といつて、赤く塗つた、小さな爪切鋏を手にとりあげました。『いやだあ、そんなもの、嫌よう。』 トロちやんは頭をふりました。 金物店の主人は、『お嬢さん、さあさあ、これをお持ちなさい、その鋏はよく切れますよ、子供が爪を長くのばしてをくのは、よくありませんよ。』 と言ひました。お母さんも、『そうでせう、この子は爪を切りたがりませんから。』 すると、夜店の金物屋さんは、眼を真丸《まんまる》くして、『それは大変だ、悪魔は爪から出入りするもんですよ。』と言ひました。トロちやんは、これを聞いて吃驚《びつくり》しました。今まで爪から悪魔が出入りするなどゝは考へなかつたからです。 そこでトロちやんは、その爪切鋏をお母さんに買つていたゞきました。 夜店を歩るき廻つて、みんなはお家《うち》に帰りました。顔や手足は埃だらけになつてゐましたので、何時《いつ》ものやうにお母さんは台所に大きな盥を持ち出して、子供達の手足を洗つてくださいました。 トロちやんは、何時もの通り、いやだ、いやだ、をしました。

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