二匹の可愛らしい子豚

二匹の可愛らしい子豚は、口を尖らし、口笛をふき、手足をのばしたり、跳ねてみたりして、母豚《おやぶた》の体のまはりを走つてゐました。 ところが、男がよくよく親豚を見ると、親豚は、なにやら青い長いものをのんきさうに、ぴちや、ぴちや、といやしく舌なめずりをしながら、水でもなめるやうな口をして喰べてゐるのでした。それは一匹の青大将でした。その喰べる容子は、たいへん熱心でした。親豚は、これを喰べてしまふまでは、赤ちやんの方は、おかまひなしといつた顔付きをして、叮嚀に噛んでゐるのです。子豚もまた母豚《おやぶた》にはおかまひなしに、『三匹産れたピー』『四匹産れたピー』『五匹産れたピー』『六匹産れたピー』 と、口笛をふいて、お母さん豚のお腹から、ぴよこ、ぴよこ飛び出し、四方八方へ駈けだしました。母豚が青大将を、尻尾まで、喰べてしまふまでには、子豚が、ピー、ピー、何匹産れたか、この豚飼の男には、おぼえがない程、たくさんに産れました。(昭4・5愛国婦人)[#改ページ]

白い鰈の話[#「白い鰈の話」は大見出し]

 しつきりなしに海底に地震のある国がありました、そのために海はいつも濁つてゐて底もみえず、漁師達はただ釣針を投げこんで手応へのあるとき糸を引きあげて釣つてゐる有様でした。村に一人の利巧ぶつた漁師が住んでゐて、彼は漁から帰つてきてこんなことを話しました。『近頃、わしの釣る鰈《かれひ》は全部真白だよ、この頃の海の水は非常にきれいになつた、それで鰈の奴も白くなつたのだらう――』と言ふのでした、仲間の漁師は考へた。自分達が漁に出ても、海の水は相変らず濁つてゐるし、だいいち真白になつた鰈などは、釣れたためしがないので、その言葉を怪しみました。『そんな筈がない、ひとつその君の白い鰈といふのを拝見させて貰はうぢやないか――』 漁師達は打ち揃つて男の家へ行つてみました、男の家の土間には、なるほど真白い鰈が列べられてゐましたが、よく見ると鰈の腹側の白いところを、みんな上向にして列べてあることがわかりました、漁師達は、それをひつくり返して、表の黒いところを出して指さしながらいひました。『君は妙な男だよ、こないだから大分、暴風波がつづいてゐたが、このたつた二三日、凪があつただけで、すぐ気の変つたことを言ふのは困りものだね、鰈の裏表もわからずに、よくもこれまで漁師をやつて来られたもんだ、大体君といふ男は物の裏表がわからんばかりぢやない、前に言つたことを、手の裏を返すやうに、平気で変へてしまふ、信用のできない、ズルイ男だよ――』 かういつて笑ひながら一同は帰つてゆきました。(昭13・6三十四)[#改ページ]

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