緋牡丹《ひぼたん》姫

緋牡丹《ひぼたん》姫[#「緋牡丹姫」は大見出し]

[#4字下げ]一[#「一」は中見出し] 唖娘はたつた一人で野原にやつてまゐりました。 そして柔らかい草の上に坐つて、花を摘んであそんでゐました。 さま/″\の、青や赤の草花の花弁《はなびら》をいちまいいちまい、針で通してつなぎました。この花弁で首輪を作つたり腕輪をつくつたりしてあそびました。 唖娘は花をつみながら、どんなにお友達のないことを悲しんだでせう、唖娘はどんなに泣いたことでせう。唖娘はたいへんほかの娘《こ》よりも、たくさん涙をもつてゐました、そしてほかの娘よりもたくさん泣いたのでした。 しかし唖娘はけつしてお友達の前で泣いたことがありませんでした。『まあ、ほんとにお可笑《かし》いわね、蛙のやうよ』 お友達は、唖娘の声をたてて、泣くのをかう言つて笑ひました。唖娘は、泣くことがほんとに下手でした、そして声を立てて泣いても、お友達の言ふやうに、ほんとうに蛙のやうに、いやらしい声をたてて泣くのです。 お友達よりも、たくさんの涙をもつてゐましたので、その涙は眼にあふれさうです、しかし皆《みんな》の前で、泣いてはみなに笑はれますので、どんなに悲しい出来事があつても、じつと堪《こら》へてをりました。そして野原の誰もゐない、静かな草の上にきて、せいいつぱい、蛙のやうな、醜い声を張りあげて泣くのでした。 唖娘は、草花の花弁を糸につなぎながら、とき/″\胸に手ををいて、五日も十日も一月も、二月も、それよりももっと/\以前の悲しい出来事までも思ひだしてはたつた一人で泣きました。しかし悲しい事がまいにち沢山つづきましたので、お友達の誰よりもあふれるやうにもつてゐた唖娘の涙もかれてしまひました。そして、蛙よりもつと醜い、『ひいひい』と馬のやうな声をだして泣くやうになりました。 それに唖娘の涙は、もう頬に流れることがなくなつて、瞼の内側に火のやうに熱くたまつた僅かばかりの涙が顔の中にながれました。 そのとき、はじめて唖娘は涙は海の水のやうに塩からいものだといふことがわかりました。

[#4字下げ]二[#「二」は中見出し]

— posted by id at 01:39 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 2.2325 sec.

http://ebook-my-home.com/