ある晴れた日

唖娘が、ある晴れた日、いつものやうに草原に坐つて花をつんでをりました。 すると、どこからともなく、美しい一人の男の子がやつてきました、そしてふところから、それは/\美味しさうに熟した、唖娘には、かつて見たこともないやうな果物をひとつだして、くれました。 しかし唖娘は、頭をふつて、けつしてたべようとはいたしませんでした。 それは、小母さんが、唖娘に毎日の食物として牛乳より他にくれませんでしたし、そのほかのものをけつして食べてはいけないと、かたく禁じられてゐたからです。 すると男の子は『笑ふことも、泣くことも忘れてしまつたお嬢さま、その実を喰べると声がでる。』 かう言つて、果物を置いたままに行つてしまひました。 唖娘は、小母さんの言つたことも忘れてしまつて、他のお友達のやうに、声をだして笑つたり泣いたりしたいばつかりに、その果物を喰べました。 すると遠くの男の子は、急に大きな鳥になつて、さん/″\唖娘を、あざ笑つて飛んでしまひました。 意地の悪い鳥に、欺されて唖娘は、果物をたべたので、声がでるどころかいままでしぼみかけた薔薇の花でも、唖娘が接吻をすると、ぱつと元気よくひらいたのが、それもできなくなつたのです。『唖娘、お前は、けふ野原でけがれた果物を喰べたにちがひないよ、あんなに清い唇が、汚《けが》れてしまつてゐる。』かう言つて小母さんは、さん/″\唖娘を鞭で打つたうへ、薔薇の花園を追ひ出してしまつたのです。 唖娘はしかたなく、野と云はず山と云はずどこと言ふあてもなく歩るき廻りました。 するとある日の夕方、大きな白い牡丹の花が、みわたす限り海のやうに咲いてゐる広い花園に着きました。 唖娘はもう悲しくなつて、この牡丹の花のなかにじつと立つて、途方にくれてゐるとそのとき唖娘の傍《そば》に咲いてゐた一本の大きな牡丹の花が『かあいさうなお嬢さん、土の中に両足を埋めてごらん、きれいな牡丹の花となる。』 とかう言ひました。

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