狼と樫の木

かう言つて、親切な白い花達は、緋牡丹姫のために、恐ろしい不幸がやつてくることを、知りながらも、賛成をしてくれたのでした。 緋牡丹姫は、ほんとうにこころから感謝いたしました。 そして緋牡丹姫は、こころから大きな声で笑ひました、そしてそれに続いて白いたくさんの牡丹達も、崩れるやうに声を合して哀れな緋牡丹姫のために笑つてくれました。 その翌朝、赤い衣装《ころも》を着た少女が悲しさうな顔をして花園に立ちました、そして一夜のうちに散つてしまつた花園の牡丹をながめながら『こんなに散つてしまふほど、花達はきちがひのやうに笑つたのだろうか。』 と思ひました。(愛国婦人発行年月不明)[#改ページ]

狼と樫の木[#「狼と樫の木」は大見出し]

 村の中に一本の樫《かし》の木が生えてゐました。何時頃からか、この樫の木の根元の大きな洞穴のなかにずる/\べつたりと一匹の大工の狼が住むやうになりました。 樫の木は狼を抱へて風を防いでやり、狼もまた自分の毛の温《あたたか》みで樫の木を暖めてやるかたちになりましたので、狼と樫の木は結婚してしまひました。 この大工の狼は、鼻柱も強く、仕事も自慢でしたが、何分にも貧乏なので、仕事がなくて、自分の腕のよいところを見せる機会がありませんでした。『なあ、わしの可愛いゝ樫の木や、いまにきつとわしの腕を認めて、王様がわしを雇いにやつてくるから、その間は苦労をしようね』『ええ、貴方の出世のためなら、妾《わたし》はどんなになつてもいとひません――』と樫の木の妻君は涙を浮べました。 狼と樫の木はお互に暖め合つたり、なぐさめあつたりしてゐるので何の不満もないはずでしたが、近頃になつて、大工の狼の腕の良いことが何時の間にか王様の耳に入つたらしく、今にも大工狼を呼びに王様のお使ひがくるといふ噂が、どこからともなく狼の耳に入つてきました。 とうとう狼と樫の木とは相談の揚句、狼は樫の木を伐り倒して、腕をふるつて高い/\踏台をつくりました、それは大変高く、王様のやぐらの高さとも劣らぬほどの高さでした。

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