タマネギになつたお話

タマネギになつたお話[#「タマネギになつたお話」は大見出し]

 悪魔は、小さな村にやつてきました。誰にも気付かれないやうに、村はづれの一軒の百姓家の、鶏小舎の中にしのび込みました。 この小悪魔は、それはしづかに、しづかに、足音もたてないやうにしのび込んだのでした。しかし耳さとい雄鶏は、早くも小悪魔の姿をみつけたので、大きな声をはりあげました。『さあ、みんな戸じまりをしつかりして』 と雌鶏たちに注意をいたしました。 そこで雌鶏たちは、悪い卵泥棒がしのびこんだなと思ひましたので、用心をすることにいたしました。 なかにはつむつた眼を、かはるがはる明[#「明」に「ママ」の注記]けて用心をしながら眠つてゐるものもありました。『お前さんは、なんて人相のわるい男だらうね、耳のかつこうといつたら、俺たちのケヅメそつくりにとがつてゐるし』 雄鶏は、鶏小屋の梁の上に、眼をしよぼ、しよぼ、さしてうづくまつてゐる悪魔を仰ぎながら言ひますと、悪魔は、うるささうにじろり、と見下したきり、それには答へませんでした。鶏たちがゆだんをしてゐたら、そこからとび下りて、喰べてしまはうとしてゐたのでせう。 夜が明けました。悪魔はなかなか早起きでしたから、早起き自慢の鶏たちでさへ、彼にはかなひません。鶏たちが眼をさました頃には、もう梁の上には、その姿がありませんでした。 悪魔が、そんなに朝早くから、どこへ出かけたのか、誰も知つたものがありません、そこで鶏たちは頭をよせて、いろいろと、このあやしい梁の上の悪魔のことを話し合ひました。『夜中に、ごそごそと音がしたね』『僕もきいた、あれは背中をかいてゐたのだよ』『ちがふよ、何かをといでゐるやうな、いやな音だつたけど』『きつと、爪をといでゐたのだらう』

— posted by id at 01:53 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 2.0464 sec.

http://ebook-my-home.com/