雄鶏が先頭になつて

その日も、雄鶏が先頭になつて、鶏の一家族は、あちこち遊びまはりました。 野原のまんなかを流れてゐる小川に、一人の百姓の娘が、青菜を水の中でザブ/\と洗つてゐました。丁寧に一枚々々葉を洗ひ、それを藁でしばつて、一掴みほどづつの束にして、自分の傍に積みあげました。 娘は、青菜を洗ひながらも、チロリ、チロリ、と横眼で近づいてくる鶏たちの方を見るのでした。 鶏たちも、また珍らしさうに首を傾げて、一束宛積みあげる、娘さんの忙がしさうな手元をながめてゐました、鶏たちの眼には青菜の白い茎はいかにも、おいしさうに見えました。『娘さんは、これからあの青菜を町に売りに出かけるのだよ、だから傍へよつてあれを泥足で踏んだり、喰べたりしてはならないよ』 と雄鶏はいひました。すると若い雌鶏は『菜を洗つてしまつた後には、きつとコボした菜が沢山あるわね』 といひました、鶏たちは、娘さんが菜を洗つてしまふのを待つことにしました、そして、その附近で遊んでゐましたが、そのうち滑稽な出来事がもちあがりました。 娘さんはせつせと洗つた青菜を積みあげてそれが三角型に高くなりました、娘さんは又一つの青菜を積みあげましたが、ところが、その青菜がどうしたはづみか、コロコロと下まで転げをちたのでした。 その青菜の慌てて転げ落ちた様子といつたらそれは/\滑稽でした、鶏たちは、お腹を抱へて笑ひました。 なかでもその年の春に生れた、若い雌鶏などは、ころげまはつて笑ひました。『わたし、こんなにお可笑しい目にあつたのは生れて始めてだわ』 といひました。すると傍から『フン』と鼻先で、意地悪さうに、『青つ葉が転げ落ちたくらいで、そんなにお可笑しいものかね――』 といふものがをりました、それはこの鶏たちの家族の中で、いつも意地悪を言つて嫌はれものの、一羽の雌鶏でした、この雌鶏は、もうたいへん歳をとつて、からだはヨボヨボでしたが、口は若い者に負けませんでした、そしてみんなと散歩にでても、自分から地を掘つたり、草の根を掻きわけたりして、餌を探すやうなことはなく、他の鶏の発見した餌を、横合からやつてきて奪ひとりました、また自分で餌をみつけると、羽をひろげて隠しましたので、鶏たちは誰も相手にしませんでした。

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