しんみりとした声で

『お婆さんも、もう餌を拾ふのが、面倒になつたのだね』 と或る日、雄鶏がいつたことがありました。『ああ、さうだよ、わしももうながいこと生きれないよ』 と婆さん鶏は、しんみりとした声でいひましたので、雄鶏もちよつと可哀さうに思ひました、しかしそのくせ婆さん鶏は、長生《ながいき》をいたしました。 百姓の娘さんは、青菜を洗つてしまひ、これを小さな手車にのせて、街の方に行きました、鶏たちはコボレた菜を仲善く拾つて喰べました、『みんな見給へ、あんな高い処を鴉が飛んでゐる』 雄鶏がいひました、一同は空を仰ぎました。[#「仰ぎました。」は底本では「仰ぎました」]なるほど、鴉が一羽高い高い空に、ゆつくりと舞つてゐました、その鴉は病気のやうでもありました、なぜと言つて、それほどに鴉の舞つてゐるところは高かつたからでした。『病気でなければ、あの鴉が気が狂つたのだらうね』 と誰やらがいひました、すると空の鴉は、急にくるくると風車のやうに、空中でもんどりを打ち、あれ、あれ、と鶏たちが声をあげて騒ぐ間もなしに、一直線に鴉は落ちました。『たしかに落ちたね、何処へ落ちたらう、森の向うだらうか、それとも森の中へだらうか』 雄鶏はかなしさうな顔をしました、雌鶏たちも、みな不幸な鴉のために同情をして、暗い悲しい顔をして、森の方をながめました。『鴉がおつこちた位で、そんなに悲しいかね』と不意にいつたものがありました、それは意地悪の婆さん鶏《どり》でした。 雄鶏は、ちよつと首の毛を逆立てて、婆さん鶏を尻眼にかけながら『さあ、さあ、みんな鶏小屋に帰りませう。』 といひ、先頭に立つて、ぷんぷん怒つて、一同を連れて小屋の方へ歩るきました。 意地悪の婆さん鶏は、一同の列の、いちばん後に、よぼよぼと尾行《つい》てきました。小屋に入ると鶏たちは、それぞれ練餌を喰べたり、砂を浴びたり、羽の手入れをしたり、勝手なことをいたしました。

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