若い者に罪はない

『いちばん先に、卵を割つたのは、わしだよ。若い者に罪はないさ。鶏が卵を食べられないといふ規則はないからね』 と憎々しくいひました。 雄鶏は、何段にもなつてゐる棲架《とまりぎ》の、いちばん上の段に飛びあがつて元気な声で『さあ、みんな棲架にとまつたか、子供たちは片脚で止まる練習もしなければ駄目だよ、片脚で立つて片脚を休ませ、かはるがはる疲れたらやるのだよ、卵箱の中に入つて寝るのは、弱虫か、病人だよ、元気なものは、いちばん高い棲架に止まるんだよ。』 とこまごまと注意をしました、鶏たちは、みな素直に雄鶏のいふやうに、なるべく高い横木をえらんで止まり、仲善く肩をすりあはしました。 雄鶏は、高いところから、婆さん鶏に声をかけました。『婆さん、地べたにうづくまつて居るのは体によくないよ』 婆さん鶏は、暗い片隅の湿つた処に、汚れた羽に頭を突込んでまるくなつて眠つてゐたので、かう親切にいひました。『わしは何処でもよいよ、元気のよいものはせいぜい高い棲架にとまるがよいさ、わしは片足をあげて眠る元気もないんだからね』 と婆さん鶏はいひました、そこで雄鶏は、地面に寝ては、夜のしめりで体を悪るくすることもあるし、殊に悪いイタチなどが、やつてくることがあるから、棲架にあがりたくなかつたら、せめて糞受板の上へでも、あがつて眠るやうにといひました。『わしの好き勝手にさして眠らしておくれ、糞受板にあがる元気も、わしにはないんだからね、イタチに喰はれてしまへば本望だよ。』 と、なかなか強情で、棲架に止まらうとはしませんでした。婆さん鶏は、地べたの上に、他の鶏たちは棲架の上に、棲架の上の鶏たちは、自分の羽に首をいれたり、また隣の鶏の脇の下に、首をいれさして貰つたりして、仲善くそして静かに眠りにをちいりました。 雄鶏は、高い棲架の上から下を見て、みなと一羽離れて、惨めな容子で寝てゐる、強情な婆さん鶏を憎むよりも、なにか哀れな同情の気持になりました。     *

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