一つの太陽と二つの現実

一つの太陽と二つの現実

日本的現実ではラジオで仏法僧を聴いてゐる、ソビヱット的現実ではトラクターが騒いでゐる、幸福なことには日本のインテリゲンチャは渋面《じゆうめん》つくつて能面《のうめん》そつくりだ、悲しいことには――夜明けでない、おかしなことには――戦の智慧者と戦術家がみんな降参してしまつた、大胆不敵にも善悪の道徳的拠りどころをもたずに詩や小説や評論を書いてゐる、だから子宮後屈《しきゆうこうくつ》症は満足な作品を産んだためしがない、これらの理由に就いて彼等はいふ、すべて日本とアチラとの現実がちがふからだ、ともつともの話だ、宇宙に太陽がひとつよりないのに、国家が幾つにも別れてゐることは――、残念なことだ、思想がそれぞれちがふといふことは――、日本的現実の中で木霊《こだま》と言ひ争ひをするやうに自分の声と争つてゐたまへ、孤独と自慰との一日を暮らしたまへ、君の幸福な寝床の上を熱い太陽がとほりすぎるだらう、たつた一つよりない太陽が二つの現実を皮肉に笑つて通りすぎるだらう。

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