無智な人々ばかり

決して単純ではない、ただ無智な人々ばかりが生活の苦しみの救ひをあらゆる単純なものに求めてゆく、老いた百姓たちが日中揃つて鍬をふりあげハッシとそれを土に打ち込む疲労は結晶となつて彼等の額からたれ鍬の柄を伝つて汗は土の中に入る、たちまち百姓達の額の汗は乾いてしまふ、なんといふ百姓達のおそるべき生活の苦痛の忘却よ、爽やかに夕風が吹いてくると百姓たちの労働は終るそして僧侶たちの夜の労働と交替する、寺男は鐘楼にのぼつて鐘の急所を目がけて撞木を老練にうちつける臍をうたれた鐘の気狂ひ笑ひよ、音は波紋を描いて余韻は村中を駈けまはり、野に去る、夜となる、村の若衆たちは踊りの樽太鼓の鳴る方へゆく、善男善女は梵鐘のリズムに吸ひつけられる、寺院では合唱隊が読経を始め一段高いところの肱掛椅子にもたれて老師はいましも物柔らかに慇懃に百姓たちに熱心に仏を説く、ほれぼれするやうな声はかういつてゐる、――お爺さん[#ここから1字下げ]

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