日比谷附近

日比谷附近

―純情な国民よ、群集の中から誰かが叫んだ、それは私のそら耳であつた。濠を背景に、兵士達は活動してゐる、私はそれを眺め美しいと思ひ、勇しいと思つた、『強い者は凡て、美しいのだ。』『でなければ、醜い程に強いか、どつちかに違ひない。』私は時代的な、新しい妬みをもつて、強いものをねたんでゐる、悲しみをもつて何者かに訴へてゐる。ただ従順といふ言葉は青年の新しい生活にはない、私はこの二三日来、強い権力のもとに身を横たへてゐる快感を、これ程までに強く、味はつたことがない。国民は武装してはゐない、武装してゐるもの、それは眼だ。たつた二つの水晶体のもの、中心的なものにぢつと注がれて動かない、溶鉱炉のやうな眼よ、すべての物語りを投げ入れて批判の熱さで溶かす、ぼんやりと水を見てゐれば、死にたくなり、線路に立ち止ればギョッと心臓が衝撃をうける、

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