日本的精神

日本的精神

今更 日本的精神とは何か――、と僕は疑ふほど、非国民ではない、常識的な議論のテーマを持ちだして彼等は日本人を強調する、少くとも議論に加はつてゐない人が非国民であるかのやうに――、狡猾な無邪気さで、この可哀さうな子供は一番真先に非国民であるといはれることを怖ろしがつて泣きだした、その泣き方の中でソロバンを弾く、どれだけ泣きすぎて、どれだけお釣りが自分の手元に残るか、彼はちやんと知つてゐるのだ、片眼だけ泣いて片眼はじつと父親の顔色をうかがつてゐる日本精神を強調する点では彼の父親は彼を叱らないことを狡猾な子供はよく知つてゐる、言ひ過ぎたとき、たしなめてくれる良い父親をもつてゐる、さあ、日本精神を勉強なさい、ピアノは買ふことができたでもいまは歌を弾くどころかピアノを調律する方が忙がしい、日本精神のドレミファから始めてこの深い洞穴からどんなに進歩的な良い音が出るか聴きたいものだ、青年達は古い日本の夢さへ見る力を失つた新しい現実主義者になつた彼等だけが白髪を殖やすために古い日本の夢を見ようとする万葉精神は遠いといふよりもカユイところにある、明治精神は近いといふよりも痛いところだ、そして現代は、カユクテ痛くてくすぐつたくて何とも言へない、いまさら万葉時代や、明治時代へまで現代の精神に水を割りに出かける必要もない、現実の痛さを知らぬものだけが理由を附して復古主義を復活させる自分で脇の下をくすぐつて一人で猿のやうに日本主義を騒いでゐる腹の空かない連中だけが日本精神といふ茶碗を論じてゐる飯の必要なものにとつては容器は問題ではない、諸君も日本的とは何か――と疑ふほど非国民であつてはいけない、日本の土の上でオギァと鳴いたものはみんな日本的だ――。

— posted by id at 02:41 pm  

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