一九三八年

一九三八年

坊主の頭の上をはだしで歩くやうな気持の悪い日がつづくのだらう、街には白い光沢のある布に黒い太い文字を書いた旗がならび情熱をさらけだして誠意をもつて汽車の窓を追ふ群叫びはつゞき酔の中で国家を思ふ、もし私が肺が悪いのでなければ一九三八年度はどんなにすべての出来事を片つ端から呼吸しつくすズックの袋のやうな大きな肺をもちだすのにいまはそれができない連続的な叫びはいつ絶えるとも知れない出来事のために底の知れない情熱を人々に割り当てる心の病人にとつても肉体の患者にとつても喧騒によつて全く安静は破られて脅迫的な泥酔漢の音頭取りに従はねばならないほこりをまひ立てて街をゆくものは鉄の車と褐色の箱車すべての民衆は黙々として坊主の頭をはだしで渡りあるくやうな不快な危なつかしさで街をゆくおゝ、お前一九三八年よ意地の悪いコヨミの早さでもう二三枚でお前も忙がしく去つてゆくのか、もうお前とも逢ふことができない悲劇で満たされたお前はふたたび次の歳に悲劇を渡すかそれとも喜劇を渡すか私はそれがせめてもの想像の喜びだ

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