泥酔歌

泥酔歌

わたしは故郷ではよく何処へでもぶつ倒れたものだ、草の上へ、河原の石の上へ、丘の上へ、何処も清潔であつた、冬は白い雪の上へ倒れた雪に顔を押しつけて雪マスクをつくつて遊んだ、いま都会ではバネのはずれたカフェーの安楽椅子の上に倒れてゐる青白い顔をした子宮後屈奴がときどき俺が死んでゐないかと顔をのぞきにやつてくる曾つて拡がつた心もすつかり今は縮まつていまでは俺の心はマッチ箱の中に入つてしまふほどに小さい。暗い隅からレコードが歌ひだした不安なキシリ声から始まつた哀愁たつぷりのジャズだ女に歌の題をたずねると『夢去りぬ――』といふ、俺はそれをきくと酔ひが静かに醒めてきたほんとうだ――夢は去つたのだ、とつぜん俺は機嫌がよくなつた、よろよろと扉をひらいて戸外にでた、古ぼけた痲痺を追つてゐる多数の人々の姿を俺はぼんやりと瞳孔の中に映しだした夢去りぬ――、俺は蚊の鳴くやうな小さな声で人々にむかつて呟やいた。

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