酔醒《よいざ》め

○ゴマメは蛋白質五割九分、脂肪弐割一分ありて滋養多し。然《しか》れども極めて不消化物なり。○数の子は蛋白質弐割、脂肪一分あり。これも不消化なり。○黒豆は蛋白質四割、脂肪壱割八分、含水炭素弐割弐分あり。植物中最も滋養分に富むものなるが極めて柔《やわらか》く煮ざれば消化悪し。○豆腐は大豆より製したるものにて滋養分多く、蛋白質七分六厘、脂肪三分六厘あり。最も賞用すべき安価食物なり。然れども消化は悪し。○蒲鉾は上等品にて蛋白質弐割、脂肪七毛あり。○焼豆腐、人参、牛蒡その他のお煮〆《にしめ》を煮るには魚類のスープを用ゆべし。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第三 酔醒《よいざ》め[#「第三 酔醒め」は中見出し]

「モシモシ大原さん、大層お魘《うな》されですね。どうなさいました、怖い夢を御覧になりましたか。モーお目覚めなさいまし」と年若き妻君は年賀の客の年頃三十二、三なる男が酒に酔いて臥《ふ》したるを呼起す。ウームと両手を展《の》ばして漸《ようや》く我に還《かえ》りたる酔余の客妻君の顔を見て面目無気《めんもくなげ》に起き直り「どうもこれはとんだ御厄介《ごやっかい》をかけましたね。御酒《ごしゅ》を戴いてあんまり好《い》い心持《こころもち》になってツイうとうとと睡《ね》てしまったと見えます。僕は御酒を飲むと何処《どこ》でも構わず寝るのが癖で大きに失礼致しました」と衣紋《えもん》を繕《つくろ》い袴《はかま》の皺《しわ》を伸ばし手巾《はんけち》を袂《たもと》より取出《とりいだ》して再び三たび口を拭《ぬぐ》う。妻君は下女に命じて茶を一杯客に呈せしめ「お就寝《やすみ》になるのは一向構いませんが大層お魘されでしたからお苦しかろうと思ってお起《おこ》し申したのです。夢でも御覧になりましたか」客「ハイ見ました、妙な夢を見ました。腹の中で胃と腸とが対談《はなし》をして頻《しきり》に不平を溢《こぼ》している所を見ました。僕は学校にいた時分から校中第一の健啖家《けんたんか》と称せられて自分も大食を自慢にした位《くらい》ですから僕の胃腸は随分骨が折れましょう。胃は極度まで拡張《かくちょう》し、腸は蠕動力《じゅどうりょく》を失っている位だと医者が申します。学生時代に一年中脳病で苦《くるし》んで思うように勉強が出来なかったのも全く大食の結果で、消化器を害すると必ず脳へ来るそうです。僕ばかりでありません、今の学生がよく脳病だ脳病だというのは大概胃病の結果でその胃病は野蛮的の暴飲暴食から来るのです。僕はそれがために此方《こちら》の小山君と同時に大学へ入りながら三度も試験に落第して同級生には残らず追越されてしまい、

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