嫁捜《よめさが》し

○南京豆の汁粉は濃きほどよし。奥州辺の胡桃餅の様に南京豆餅と称して可なり。餅のなき時は白玉を用ゆるもよし。○和物は本文の通りによく炒りて摺りたるものへ絞った豆腐を入れ、塩と砂糖を加えてよく摺り交ぜ、別に人参と蒟蒻《こんにゃく》あるいは蕪などを湯煮《ゆで》て漏《こぼ》して醤油と味淋にて味をつけ、柔《やわらか》になるまで煮て、冷めたる時南京豆と和えるなり。○南京豆の豆腐は摺った南京豆一杯と上等葛一杯と水五、六杯の割にてよく交ぜ合せて鍋に入れ、火にかけて充分に煉《ね》り、四角な器に入れ冷し、これを葛の餡掛《あんかけ》にしてもよし、酢味噌にしてもよし。○葛入餅を製する時葛の粉にしたるものを蒸さずに餅の熱き処へ少しずつ交ぜながら搗きてもよし、また糯米の粉にしたるものへ交ぜてもよし。○南京豆は相州産を良しとす。蛋白質弐割四分、脂肪五割、含水炭素壱割二分ありて滋養分多し。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第五 嫁捜《よめさが》し[#「第五 嫁捜し」は中見出し]

 珍らしき御馳走に客は腹の膨《ふく》るるまで飽食《ほうしょく》せり「奥さん、あんまり美味《おいし》いので三杯も平らげましたが軽いといっても南京豆|脂肪《しぼう》に富んだものですから胸が焼けて気が重くなってモー動けません。困りましたな」とさも苦し気に見ゆ。妻君|笑《わらい》を含み「お茶を差上ましょうか、随分よくお汁粉を召上りましたもの。お気が重ければモー一度お就寝《やすみ》なさい。枕をお貸し申しましょう。田舎《いなか》では人にお餅を沢山御馳走してその跡で枕を出す処《ところ》もあるといいますが、そういう時には無理に身体《からだ》を動かさないで静《しずか》に臥《ね》ていらっしゃる方がようございます。マア御緩《ごゆっく》りとお遊びなさい、どうせ御用もないのでしょう」客「イイエ用事は大有りです。今日は平生《へいぜい》知った人の家へ残らず年始廻りに歩きたいと思うので」妻君「それは大層御勉強です。良人《やど》なんぞは年始廻りがイヤだと申して近県旅行に伊豆|辺《あたり》まで出かけました」客「僕も勉強して年始に廻る訳《わけ》でありません、少々|外《ほか》に野心があるのです、というのは外でもないが多くの人の家へ往《い》って良い嫁を捜したいと思うので」妻君「オヤマア油断がなりませんね、貴君《あなた》はモーそんな野心をお起しなすったのですか。良人の話に、貴君は大食家で有名だけれども品行はお堅くって今まで一度も悪い噂を聞いた事がない、あれは感心だと申しておりました。急にお嫁さんが欲しくおなりですか、まだちっとお早いでありませんか。

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