国元から押掛女房《おしかけにょうぼう》

モー二、三年も過ぎてからでようございましょう」客「僕も急に欲しくなった訳でありませんが少し急ぐべき事情があるのです。僕がぐずぐずしていると国元から押掛女房《おしかけにょうぼう》が遣《や》って来そうなので」妻君「そんなお方《かた》がおありなさるのですか」客「外《ほか》でもありません僕の従妹《いとこ》です。全体僕の家は分家で従妹は本家の娘ですが僕の学資を半分ずつ本家から助けてもらった恩もあり、もしやその娘を貰ってくれろといわれたら断《ことわ》るに困ります。まだ別段親の口からも叔父《おじ》の口からも何という相談が来た訳でありませんが僕の親と向うの親との間にその下心なきにあらずで一昨年帰省した時、僕がそれを察知《さっ》したのです。それに僕もお情けながら大学を卒業して文学士とか何とか肩書の付いてみれば国元のような片田舎《かたいなか》では鬼の首を取ったように思うのです。ヤレ卒業祝いをするから帰って来いの村中一統の名誉だから一度帰れのと去年から頻《しきり》に催促が来ますけれども、うっかり帰ると忽《たちま》ち嫁の相談となってその従妹を押付けられるに違いないから僕も国へ帰りません。なるべく此方《こっち》で好《い》い嫁を貰ってその後に帰りたいと思います」妻君「それならばなお結構でありませんか。そのお方をお貰いなすったらよいでしょうに」客「それがね、特別に悪い女というほどでもありませんがなにしろ奥州の山の中で育った田舎娘です。教育もなければ礼儀も知らず、身体《からだ》はといったら僕よりも大きいほどの大女、赤ら顔で縮れっ毛で団子鼻《だんごッぱな》のどんぐり眼《まなこ》と来ていますから何ぼ何でも東京へ連れて来て僕のワイフですと人中《ひとなか》へ出せません。国元の方から何とも言って来ない内に此方で早く好《よ》い嫁を極《き》めてしまいたいのです。奥さんどうぞ世話をして下さらんか」と今の若き人には往々かかる事情の存するあり。[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]○海苔汁粉というものあり。そは餅を小さく切りこんがりと焼き湯に漬けて柔になし椀に盛りて大根|卸《おろ》しを懸け砂糖を少しく振り焼海苔を細く揉みてかけ醤油を少しく滴《たら》して食す。○味噌餅は餅を柔く湯煮《ゆで》おき別に赤味噌を擂り酒と砂糖にて味を付け裏漉《うらごし》にして一旦煮立て餅の上へかけ椀の蓋をなし少し蒸らして食す。[#ここで字下げ終わり]

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