立目《たてめ》の俎板で

といって立目《たてめ》の俎板で肉を細《こまか》く截《き》るが此方にその俎板がない。豚の肉を細く糸切にしてグラグラ沸騰《ふっとう》している塩湯へ少しずつ落してザット湯だったら網杓子《あみじゃくし》で笊《ざる》へ掬《すく》い上《あ》げてよく水気を切って今度は外《ほか》の鍋で油の中へ入れて炒《い》り付《つ》ける。それから水一升に酒一合の割合で二時間ばかり煮て、牛蒡《ごぼう》と糸蒟蒻《いとごんにゃく》と木くらげがあればなおいい。あるいは外の野菜でも時の物で構わん。野菜をやっぱり細長く切ってそれへ加えて砂糖と醤油で味を付けるのさ。葱《ねぎ》を細《こまか》に切ってヤクミにして食べると塩ゆでにしてあるから誰も豚と思わんよ。女に御馳走するならこれが一番だね」大原「僕も豚ではないと思った、実に美味くって頬が落ちる。これは全く御令妹《ごれいまい》のお手料理だからこんなにおいしいのだね」と柄《がら》になきお世辞を言う。娘も少し鼻が高し「どうぞその角煮を一つ召上って下さい」とこれが最も自慢の料理。[#「テンピの図」のキャプション付きの図入る][#「カステラ鍋の図」のキャプション付きの図入る][#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]○琉球の塩豚にも色々の種類あり。その中で縄巻と称し、肉の周囲へ塩をつけ荒縄にてグルグル巻きたるが上等なり。○琉球の塩豚を料理するは一晩位水に漬けて塩気を出し、一旦湯煮て薩摩汁の如く種々の野菜と共に煮るがよし。また刺身にもなる。種々の豚料理に用ゆべし。○ソボロに用ゆる豚の肉は最初塩にて揉み、それを沸湯に投じてもよし。○ソボロは汁が沢山あるほどに煮詰めてよし。外の野菜もなるべく小さく切るがよし。○テンピは西洋食品屋にあり。壱円五十銭位なり。○カステラ鍋は東京市浅草区蔵前片町瀬村正兵衛氏方にあり。壱円五十銭位なり。○豚は生肉にて蛋白質壱割五分、脂肪三割七分あり。ハムにしたるものは蛋白質弐割四分、脂肪三割六分となりて滋養分牛肉に優る。故に長く煮てよく調理すれば滋養分は牛肉に劣らず。○豚の糸切の塩湯煮にしたるを煮ていり豆腐へ交ぜ再び炒りてもよし。[#ここで字下げ終わり]

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