人の噂

[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]○梅干あえの梅干分量は見計らいにすべし。○梅干あえを衣にして中へ栗、慈姑《くわい》、蓮根その他種々の物を入れてよし。○茶巾絞りの上に碾茶《ひきちゃ》を交ぜたる芋を引筒にて押出しかけると体裁よき菓子となる。○薩摩芋は蛋白質一分五厘、脂肪二厘、含水炭素三割、繊維弐分四厘ほどあり。この繊維は如何に調理するも人の胃腸に消化せられぬもの故裏漉にて取除くが必要なり。○里芋は蛋白質弐分、脂肪二厘、含水炭素壱割五分、繊維七厘なり。○芋のフライは生のまま大根|卸《おろ》しにて摺り卸し、米利堅粉と交ぜ、油で揚げるもよし。○寄せ物の寒天を使う代りに西洋の食用膠《しょくようにかわ》ゼラチンを使えばなおよし。○蒸物は漉したる芋を玉子と摺り交ぜ米利堅粉を加え味をつけて程好き固さとなし、それをカステラ鍋に入れて蒸焼にす。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第十九 人の噂[#「第十九 人の噂」は中見出し]

 妻君は料理に夢中なり「薩摩芋がこんなに美味《おい》しくなるなら直段《ねだん》の高い物ばかり買わないで毎日お芋料理を致しましょう。そのセンはどうなさいます」お登和「これは塩湯を沸《に》たたせてそれへこのセンを入れてザット湯煮て水でよく洗います。塩で締りますから切れません。今度は水を入れて塩とお砂糖で味をつけますが長く煮過ぎると切れてしまいます。その煮加減が少しむずかしいので」と自分で残らず拵《こしら》えて見せる。妻君感歎し「マア綺麗ですこと。お三やちょいと御覧、誰が見てもお芋と思えないね。良人《やど》が旅から帰って参りましたら黙ってこれを出してみましょう。きっと吃驚《びっくり》致しますよ。まだ外《ほか》にお芋の使い方はございませんか」お登和「体裁《ていさい》をかえればまだ色々なものになりますが、湯煮て裏漉《うらご》しにしてお芋を一日|乾《ほ》してお餅《もち》を搗《つ》く時お米と一所に蒸して搗き込みますと大層美味しいお餅が出来ます。それは上等の油で揚げて食べるのが一番です」妻君「そうでございますか、今に寒餅《かんもち》を搗かせますから試してみましょう。葛《くず》を入れたお餅は暮に搗きましたけれども、まだ外に変ったお餅はありませんか」お登和「大豆を生のまま碾臼《ひきうす》で挽《ひ》いてそれを二升に五|勺《しゃく》位な割で海鼠餅《なまこもち》に搗き込みますと乾きが悪うございますけれども、カキ餅にして焼きました時お砂糖入りのカキ餅よりもよく膨《ふく》れて軽うございます」妻君「そうですかそれも試してみましょう。お餅を截《き》る時|庖丁《ほうちょう》へ截口《きりぐち》が粘着《くっつ》いて困りますが好《よ》い法はありませんか」お登和「大きな大根を側へ置いて先ず庖丁でザクリと截ってはお餅を截りまた大根を截ってお餅を截るとお餅が粘着きません」妻君「それは好い事を伺《うかが》いました、貴嬢《あなた》はよくそんなに料理の事をお覚えですね。私なんぞは娘の時分少しも料理の事を心掛けませんでしたから嫁に来て急に困りました。

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