お豆腐

○章魚は本文の外に酒にて柔く煮る法もあり。そは最初に塩を用いずして水にてよく洗い、小口より切り、沸立ちたる湯に入れ、箸にて手早く掻廻し、直ちに冷水へ入れ、笊《ざる》に揚げ、鍋の底に煮笊を敷きてその上に列《なら》べ、水と酒とを半ばずつにして四時間ほど煮詰め、能《よ》く柔に煮えし時砂糖を加え、醤油を注《さ》して再び煮上ぐるなり。○章魚の塩煮は前文の如く柔に煮たるものへ醤油を加えずして食塩を加う。○里芋は皮を剥いて切って長く蒸すなり。蒸す時注意して列べざればネバリにて湯気通らぬ事あり。○章魚は蛋白質壱割七分、脂肪四分五厘あれども柔に煮ざれば消化甚だ悪し。○里芋の柔煮は大なる物と小なる物とを別々にすべし。大小を共に煮れば大は煮え足らず小は煮え過ぎて工合《ぐあい》悪し。最初より粒の揃いたるを択ぶがよし。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第二十三 お豆腐[#「第二十三 お豆腐」は中見出し]

 大原はお登和の命に応じて章魚《たこ》を叩き終りしが今の小言が縁になりて自分からも口を利き「さてお登和さん、今度は何を致しましょう」お登和「そうですねー。奥さん、まだ何かお拵《こしら》えになりますか」妻君「何でも沢山拵えて戴きましょう。お昼の副食物《おかず》に干瓢《かんぴょう》を煮ましょうか、しかし干瓢はなかなか急に柔《やわらか》くなりませんね」お登和「イイエ塩で揉《も》むと直きに柔く煮えます。章魚や鮑《あわび》は塩で揉むと堅くなりますが干瓢は反対で大層柔くなります。大原さん、干瓢をよく塩で揉んでそれから水で洗って下さい」大原「ハイハイ」と大悦《おおよろこ》び。妻君は下女に命じて近所の豆腐屋へ走らしめ「お登和さん、お昼の副食物にお汁物《つゆもの》がありませんから餡《あん》かけ豆腐《どうふ》を拵えましょう。餡かけ豆腐にも何か御伝授がありますか」お登和「別に伝授もありませんがお豆腐を湯煮《ゆで》る時お湯の中へ上等の葛《くず》を少しお入れなさい。長く煮ても決して鬆《す》が立ちません。普通《なみ》のお豆腐でも絹漉《きぬごし》のように柔くなります」妻君「オヤそうですか、私どもでは湯豆腐をします時|曹達《そうだ》か塩を入れます」お登和「曹達でも柔になりますがお豆腐が崩れて味も悪うございます。

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