カツレツ

[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]○南京豆は蛋白質二割四分、脂肪五割、含水炭素一割二分、繊維四分あり。○白胡麻は蛋白質二割、脂肪五割一分、黒胡麻は蛋白質一割九分、脂肪四割四分にていずれも南京豆より蛋白質の割合少しく劣れり。○人参は蛋白質一分二厘五毛、含水炭素七分四厘、繊維一分一厘等にて殆ど九割は水分なり。○食用大根は京都聖護院産および名古屋宮重および方領産を良しとす。上等品にて蛋白質一分八厘、含水炭素二分七厘、繊維七厘、水分九割四分なり。○味噌の上等は蛋白質一割五分、脂肪五分余ありて滋養分多し。三年を過ぎたる古味噌の最上等品にて製したる味噌汁はその功牛乳に優る。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第四十二 カツレツ[#「第四十二 カツレツ」は中見出し]

 小山の妻君は再び台所に退きてやがて西洋皿に鶏肉《けいにく》のカツレツを盛りて出で来れり「中川さん、このカツレツは誠に不出来でお愧《はずか》しゅうございますが貴君《あなた》に一つ本式の料理法を伺《うかが》いたいと思います、私どもがカツレツを拵《こしら》えますとどうしても白く出来ません。真赤に黒くなってそれで肉へは火がよく通りません。どういう訳《わけ》でしょう」と素人《しろうと》のカツレツには往々この弊《へい》あり。中川その肉を試みて思案し「それでは鶏《とり》の肉を湯煮《ゆで》ずに直《す》ぐお揚《あ》げなさいますか」妻君「イイエ湯煮ません」中川「湯煮ないと火が通りません。最初に鶏の肉を三十分ばかり湯煮ておいて、それを先《ま》ず玉子の黄身でくるんで米利堅粉《めりけんこ》をつけて、モー一度玉子の黄身でくるんで今度はパン粉へ転がして塩と胡椒を撒《ま》いてそれをバターなり何なりで揚げるのです。湯煮てありますからザット揚げれば直ぐ出来て赤くも黒くもなりません」妻君「オヤそうでございますか、良人《やど》は鶏の肉が好きで毎度拵えますがいつでも小言を言われます」中川「小山君は鶏の肉が好きかね、それならば僕が今度君に無類|飛切《とびきり》という鶏の肉を御馳走しよう、如何《いか》なる金満家も贅沢家もまだ滅多には試みない鶏料理を差し上げよう」主人「是非願いたい、何という鳥だね」中川「それはその時に説明しよう。奥さん、色々どうも御馳走でした。オヤまだ何か出ますか、ナニ蜜柑《みかん》の葛掛、これは妙ですな。山葵《わさび》の匂《にお》いと辛味があっていわゆる五味の調和ですか」妻君「五味だか何だか分りませんが、それは先ず塩とお砂糖で濃い葛湯《くずゆ》を拵らえてそれへ摺った山葵と蜜柑の実ばかりとを入れて掻《か》き交《ま》ぜたのです。上等にしますと三寸位の山葵なら一合の沸湯《にえゆ》を注《つ》いで、固く蓋《ふた》をしておく事が一時間、そうすると山葵の辛味がすっかりお湯へ出ます。その湯を沸かして葛湯を拵らえて蜜柑の外に林檎《りんご》を小さく切って加えるとようございますけれども急ぎましたから略式に致しました」と当座の御馳走ながら妻君がお登和嬢に笑われまじとて心を籠《こ》めたる苦心の料理。中川も一々|賞翫《しょうがん》して自分の主張せし五味の調和説が迫々行われんとするを悦《よろこ》び「小山君、支那人の五味調和説も段々研究してみると西洋の生理学に暗合しているから妙だね。生理学上で食物を消化するのは五つの液《えき》だ。

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