幹線の鉄管を流れている時

水道の水も幹線の鉄管を流れている時は無論鉛毒もないが自家用の鉛管へ入ってから一日も二日も流れずにいると自然とその中へ鉛毒が生じて来る。だから西洋の台所では朝早く第一番の水を出す時ネジをねじって先ず最初の溜り水を二分間か三分間ドシドシ流してしまって、鉛管の水がすっかり流れ出て本幹の清潔な水が其処《そこ》へ来た時その水を桶へ受けるようにする。どんな無性《ぶしょう》なお三《さん》どんでも決していきなり桶をネジの口へ当てて昨夜《ゆうべ》の溜り水を使うような事はしない。朝ばかりでなく何時《いつ》でも水道の水を使う時は先ず最初の溜り水を捨てる習慣になっているから鉛毒を受けんけれども我邦《わがくに》ではまだ水道の使用者に経験がないから、朝起ると直《す》ぐに水道の鉛管から水を出してそれで飯を炊《た》いたり水を沸かしたりする。あれが実に危険なので、もしや二日も三日も溜まっていた水だと鉛毒は勿論《もちろん》、悪い虫も必ず発生しているに違いない。蛭《ひる》が出るの虫が出るのと騒いだ事があったけれども太い本管をドシドシ流れている中では蛭も虫も発生する事は出来ん。支線の溜り水へ来て発生するのだ。溜り水の中へは細菌も沢山発生する。よく俗に日光の通らん処では虫が生《わ》かないといって四日も五日も汲《く》み置《お》きの水を使う人があるけれども、日光の通らん処は大概温度が低いため虫の発生に適当しないので温度さえ与えれば何処《どこ》でも発生する。医学上で細菌を発生させる培養器だって日光には関係しない。ただ適当の温度を与えるばかりだ。しかるに我邦の台所では竈《かまど》の側を水道の鉛管が通っておる処もあるし、その脇へ七厘を置いてある家《うち》もある。それで水が溜まっていたら温度を与えて細菌を発生させるようなものだ。現に独逸《どいつ》の伯林《べるりん》でも今より十二、三年前各処の水道の支線から不意に水が出なくなって大騒ぎをした事がある。取敢《とりあ》えずその支線を掃除して水を通すとまた十日ばかり過ぎて水が通らなくなる。二、三度そういう事が続いたから最初は工学者に研究させ次は理学者に試験させ色々な手段を尽してもその原因が分らなかった。最後に医者がその水を試験して一種の細菌が非常に沢山発生したため水の流通を妨げたと分って殺虫剤を流してその害を除いた事がある。我邦では西洋の事物を持って来てもその運用法を知らんから随分|隠約《いんやく》の間に鉛毒を受けている人があるかもしれない。今はなくとも水道の使用が長年に渡ると追々出来るかも知れない。水道を使う人はよくよく注意して溜り水を捨てる事にしなければならん」と毎日口に入るるものは片時《へんじ》も等閑《なおざり》にすべからず。[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]

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