無類の珍味

○梅干を煮る時本文の外に醤油を少し加うれば一層味よし。然《しか》れどもこれは人の好き嫌いあり。○鉛毒は慢性病なればその害大に恐るべし。政府が粗製の瀬戸引鍋を厳禁したるは鉛を交えあるがためなり。○鉛の慢性中毒は鉛毒疝痛とて臍の辺に一種の発作状の痛みを感じ、また鉛毒麻痺とて手の甲と足の甲へ麻痺を覚ゆ。遂には歯ぐきの色灰の如く白みを帯びて腫れ出し、頑固の便秘を起して重体に陥るものなり。婦人は月経の閉止を起す。近来都会の人にかかる症状多しという。鉛毒の虞《おそれ》ある人は注意せざるべからず。○鉛毒は一度体中に入るや容易に体外へ排泄せられざる性質を有す。故に極少量の鉛分も毎日体中に入れば次第に蓄積されて中毒を起す。その甚しきは死に至る者あり。[#ここで字下げ終わり]

[#4字下げ]第五十二 無類の珍味[#「第五十二 無類の珍味」は中見出し]

 梅干の談話《はなし》はとんだ枝線《しせん》へ流れ込みたり。続いて下女が持出す西洋皿には鶏《とり》の肉に白き汁をかけたるあり。主人の中川さも自慢顔に「大原君、このボイルドチッキンこそ如何《いか》なる贅沢家《ぜいたくか》も金満家もまだ滅多《めった》に口にした事のない天下の珍味だ。そのつもりでよく味《あじわ》ってくれ給え。これは仏蘭西人《ふらんすじん》が最上等の料理と珍重《ちんちょう》するドウキングのケーポンだよ」大原「何の事だね」主人「ドウキングというのは肉用鶏《にくようけい》の中で第一等の種類さ。ケーポンというのはその去勢したのだ。

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