昭和十三年十月

[#3字下げ]昭和十三年十月[#「昭和十三年十月」は大見出し]

[#1字下げ]十月一日(土曜)[#「十月一日(土曜)」は中見出し] 十二時頃東宝映画のヅラ合せに来たので起き、道子と二時頃出かけて、伊東屋で石膏像を一つは、田中三郎の家へ届けさせ(夫人が美容院を開業する祝ひに)、一つは、橘弘一路の映画世界社の新社屋落成祝ひに買ひ、それを持って行く。橘・大黒と話し、ダービンその他の原画を貰って、晩翠軒で道子と食事、あんまりうまくなし。四谷喜吉へ行ってみる。小勝の八十一歳の顔がとてもよかった、久しぶりで笑った。帰りに新宿の一平でおでん食ってたら、酔っぱらひの医大学生が無礼を働き、気分をこはした。帰宅。乱歩の「大暗室」を読了。

[#1字下げ]十月二日(日曜)[#「十月二日(日曜)」は中見出し] 十一時すぎ迄よくねた。林房雄の「太陽と薔薇」にかゝる。四時半に出て新橋演舞場へ。五郎劇なのだが、又々五郎が胆石病で入院し、座長を除く一座で値下げして前売は一円の払ひ戻しあり。狂言も五郎臭の強いものはなくなってゐるが、見終って、さほどがっかりさせなかったことは偉い。夕めしは此処のまづい洋食。楽屋へ行き、中根蝶太郎、新加入の十次郎に会ひ五郎氏によろしく伝へる。「花柳一夕噺」が一ばん面白かった。ハネは九時四十分。千成ずしに寄り、白いのを食ひ帰宅。ムシ/\と夏の如く暑い。 五郎抜きの五郎一座、とんだ日の前売を買ってしまったとはいふものゝ此ういふ変った興行は見ようと言っても中々見られないが。今日の五狂言見終って先づ及第点なのは偉いと思ふ。又、此の場の応急手段が実によく行ってゐる。入りは、六分ってとこだった。

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