十二月七日(水曜)

[#1字下げ]十二月七日(水曜)[#「十二月七日(水曜)」は中見出し] 彦根ロケーション。 夢野久作の「犬神博士」を読み、三時近くなった、朝、――「雨かい?」「はい雨で。」おや/\、雨のロケーションはみぢめなり。起きて入浴、八景亭の庭は広々として、池があり心持がいゝ。朝めし、味噌汁以外はよし。四時半に起きる、宿の女中が、よごれたハンケチを持ってサインをたのみに来る。夕食の膳が来る、思ったより食へる。渡辺・藤原とハイヤで町へ出た、コンキといふカフェかレストランか分らないとこでホットケーキを食べ、出てスマートボールといふのをやって二十銭ばかり遣ひ、宿へ帰ると、又読書。 宿の女中が言ふことが一々腹が立つ、必要なことは一つも言はぬ、くだらないことばかりを言ふのだ。それが決して悪意からではない、人情土地風俗の相違のみである。が、そいつが腹の立たないほど、修養は出来まい。

[#1字下げ]十二月八日(木曜)[#「十二月八日(木曜)」は中見出し] 京都へ帰る。 カラリと晴れた、とんびがヒョロ/\と鳴く、彦根の名物らしい。食事すませると、床山来りオデコにねば土をくっつけ、衣裳つけて、彦根城へ。鎧をつけて、武士の行列をおさへるところ、川勝との喧嘩等。小便がしたくなっても鎧なので出来ず、がまんして二時近く迄撮る。もう陽が無いとて、今日はチョン。土地のキャメラ愛好者が来り、女学生が宿へおしかけて来てサインをせがむ。四時半の汽車で彦根駅発、京都へ着き、宿へ帰ったが、うまいもの食ひたく、一人でアラスカへ行き、ウイスキーソーダと共に、オニオン・グラタン、ヨークハム・キャシノ食ふと、ねむくなり、ふらり/\と宿へ帰りねる。 彦根城下の小学校か幼稚園から、七八才の子供を数十名、エキストラに借りて、行列の場面を撮影した。その子供らが統率者の言ふことをよくきくのには驚いた。文化未だ至らず、彦根の子供である。東京のエキストラの子供だったら、言ふこともきかない。終って、二個宛まんじゅうを貰ったときの嬉しさうな顔も、とても東京で見られない表情であった。

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