五月十一日(木曜)

[#1字下げ]五月十一日(木曜)[#「五月十一日(木曜)」は中見出し] ロッパの子守唄 撮影第一日――ロケ。 六時半に起される。宿屋の味噌汁のはかなさよ――大宮町から約一時間、目的地へ着く、富士裾野の根原といふ、茅葺ばかりの村、曇りでやっと一カットを撮り、待ち、宿からの弁当うまし。富士は晴れたり曇ったり、雪ちら/\と寒い。待ってゝもダメと白糸滝迄行く。茶店でウデ卵子食ったりして待ち、つひにこれもダメとなり、ダレて大宮町へ引返す。宿へ帰ってスタッフ連と麻雀、上山・白川と町へ出かけ、ひどい洋食屋で二三食ふ。かなり悲しい町である。夜は又スタッフ連と麻雀し、カンづめのゆであづきを食べる、これがうまい。 富士高原の根原村、そこの子供は、われらの宿の弁当の余りを与へたら貪り食ったさうだ。然し、その子供らの歌ふのをきけば、「満洲娘」の一ふしで、「王さん待ってゝ頂戴ね」と来たのである。 曇天で生れたダジャレ、「ロッパの曇り唄」。もう一つ。富士裾野には、確かゴルフ場がある筈だと言ふから、あそこにあると指した。あれはW・Cだ、だから、ゴフジョーさ。

[#1字下げ]五月十二日(金曜)[#「五月十二日(金曜)」は中見出し] 雨の音、而も沛然と。これじゃあロケは駄目だ。はかない朝飯を食って、「モダン日本」へ漫才を五枚、「ライト」の一枚半、片付ける。十二時近くから又麻雀だ。夕刻迄やり、川口松太郎より贈られた「新篇丹下左膳」を読む。夕飯に、肉ばなれがしさうだから、すきやきを頼む。鶏肉の如きが出たので、きくと、牝牛ださうで、その悲しい味に驚く。町の松竹座といふのへ行く。新興の「仇討人情双六」と「喧嘩横町物語 貧しき者の幸福」共に面白く、大いに参考になった。もう一つ「孫悟空」第二篇、まだ雨、十一時半床へ入る。 此の宿に泊って、久しぶりで夕ぐれの悲しみを味はった。電燈が六時にならないと点かないのだ。たそがれ時の悲しみ。もう一つは、牝牛の肉を食ったことだ、われ/\の常に食ってゐるのは、あれは雄の牛であったのか。そして牝牛といふものゝ味たるや。ソップ殻の肉を噛むやうな、いや、もっとはかない味であった。

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